エンジニアの人手不足が深刻化し、採用難易度が高まっています。そこで、採用力の向上とミスマッチの解消が非常に重要になっています。この2つを改善するためにも採用基準の策定が求められます。
しかし、
- エンジニアの採用基準がわからない
- エンジニア特有の必要なソフトスキルがわからない
- 専門性が高くエンジニアに寄り添った求人になっていない
- 相場と同程度の給与にかかわらず、応募が来ない
- なにから手をつけていいかわからない
など、エンジニア採用に苦戦している人事担当者様も多いのではないでしょうか。
この記事では採用基準の策定方法から運用方法まで解説していきます。
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採用基準を策定するメリット
採用基準を明確化することで、以下のようなメリットがあります。
- 客観的なスキル評価で採用精度が向上する
- 磨かれた求人情報で求職者にアピールができる
- 効率的に採用活動を行える
客観的なスキル評価で採用精度が向上する
エンジニアの採用にあたってハードスキルの評価が最も重要です。
そのため、
- プログラミング言語(例:Python, Java)
- フレームワーク(例:Rails, Django)
- ライブラリ・パッケージ(例:Selenium, TensorFlow)
- ツールの使用経験(例:Git, Docker)
- サーバー・環境(例:AWS, Azure)
等を評価することが必要となります。
採用基準を正しく運用することは評価を客観的に行うことに繋がります。一律の客観的な評価を求職者に出せることで採用精度が向上し、採用の質が高まるでしょう。
具体的な評価手法には、
- コーディングテスト
- ペアプログラミング
- システム設計課題
- ポートフォリオ
があります。
磨かれた求人情報で求職者にアピールができる
企業の採用基準は、単に求職者をふるい分けるための基準ではありません。磨かれた採用基準は、求人情報に深みを与え、求職者に企業の魅力を効果的に伝えるための重要なツールとなります。
例えば、
- フロントエンドでの開発経験がある方募集中
- フロントエンドでの3年以上の実務経験、Reactを使用した1年以上の開発経験
具体的な数字とツールを含めるだけですが、求人の解像度は全く異なります。解像度を上げることは経験だけではなく、企業の魅力や強みを効果的に打ち出すためにも重要です。
採用基準の策定は求人情報の魅力を高める以外にも、採用活動全体を成功に導くための重要な要素となります。
自社のビジョンや理念、求める人材像を明確にした採用基準は、優秀な人材を獲得する強力な武器になるでしょう。
効率的に採用活動を行える
採用基準を策定することで、効率的に採用活動を行うことに繋がります。理由は主に以下の2点あります。
- 候補者の判断スピードが速まるから
- 採用母集団の質が上がり、自社にマッチしない人材を排除できるから
まず、明確な基準があることによって、候補者のスクリーニングや面接プロセスが迅速かつ効率的になります。採用基準が曖昧だと、客観的な判断ではなく、主観で判断することになります。主観で判断する場合、どの候補者が最適であるかの判断に時間がかかってしまいます。その結果、選考プロセスに遅延が生じるのです。よって、採用基準を明確にすることは採用の効率化につながるといえます。
また、採用母集団の質が上がるという点も挙げられます。採用基準に合致する候補者を迅速に見つけることができるため、不適切な候補者に割く時間を割くことができ、結果として採用活動の効率化に繋がります。
採用基準を設定する際の4つの過ち
「採用基準を設けているにもかかわらず、なかなか優秀な人材が集まらない」そんな悩みを抱えている企業は多いのではないでしょうか?
実は、採用基準自体に問題があるケースも少なくありません。
ここでは採用基準を設定する際の4つの過ちについて解説していきます。
必須要件が明確ではない
必須要件が曖昧な採用基準は、採用活動の失敗を招き、企業に大きな損失をもたらす可能性があります。
必須要件が明確ではないことによって、
- 採用担当者の恣意的判断による選考
- 応募者からの誤解
- 採用活動の非効率化
が発生します。
結果として、
- 人材が集まらない
- 優秀な人材を見逃す
- 企業に合致しない人材を採用する
この様な採用失敗のリスクが高まるでしょう。
企業は、自社のビジョンや理念、求める人材像を明確にした上で、具体的な必須要件を設定することが重要です。必須要件を明確にすることが候補者を増やすことに繋がるでしょう。
開発環境に固執した条件
近年、開発環境は多様化しており、特定の環境に固執した人材は限られています。そのため、企業の開発環境に一致する経験を求めることは現実的ではありません。基本的な要件を満たしている応募者であれば、多少の環境の違いは問題ない場合が多いです。
開発環境が違う例として、使用するフレームワーク、ソースコード管理ツールの違いが挙げられます。
開発環境に関する一切の使用経験がない場合には教育コストがかかるケースもあります。しかし、実務において使用経験がある場合は、他のツールでも問題なく利用することができます。
開発環境に固執することなく、求めるスキルや経験、学習意欲などを重視することで、優秀な人材を獲得し、変化に対応できる組織を作ることが重要です。
エンジニアに必要のないソフトスキルを求めている
人事のみが面接に参加し、合否を検討する際に起きやすい事象として、エンジニアとして必要ではないポイントを重視していることが挙げられます。
例えば、
- 明るいコミュニケーション
- 人当たりの良さ
- リーダシップ
- 交渉力
といった観点をソフトスキルのポイントに挙げ、面接の合否を検討するシーンが見られます。しかし、ソフトスキルが備わっていることは良いことですが、「本当にエンジニアに必要なスキルか?」については、現場エンジニアと議論する必要があるでしょう。
必要なスキルであればシチュエーションを具体化し、使用する場面を指定することが重要です。
例えば、
- 開発現場において、物事を分かりやすく伝達するコミュニケーションスキル
- チームメンバーと効果的に情報共有し、連携してプロジェクトを遂行するチームワーク力
このようにソフトスキルの基準を使用場面を明確にし、検討するのが良いでしょう。
市場相場を無視した採用基準になっている
優秀な人材の獲得競争は激化しており、市場相場よりも低い給与や福利厚生では、優秀な人材を獲得することはできません。市場相場を無視した採用基準を設定すると、優秀な人材は他の企業に応募してしまい、企業にとって貴重な人材を獲得する機会を逃してしまうことになります。
そのため、「他社がどんな要件で求人を出稿しているか」を調べることが重要です。他社の求人要件から採用基準を逆算し、自社との違いを理解する事ができます。また、市場相場への理解を行うことで求人でアピールするべきポイントの発見に繋がります。
市場相場を無視した採用基準は、優秀な人材の獲得を妨げてしまうでしょう。
そこで企業は、
- 自社の事業内容
- 財務状況
- エンジニアの市場相場
- 給与以外の待遇
を考慮し、市場相場に見合った採用基準を設定することが重要です。
【事例付き】採用基準3つの作成手順
エンジニア採用の基準を作成するための手順について3つの工程を解説していきます。
現場エンジニアを中心に必須スキルを洗い出す
現場エンジニアは、製品やサービスの開発・運用において最も重要な役割を担う存在です。サービスの開発・運用に実際に必要なスキルを把握することで、採用基準が現場のニーズを汲み取った内容になります。
必須スキルを洗い出すためには以下の要素を具体的に示すことが必要です。
- 経験年数
- プログラミング言語
- フレームワーク
- ライブラリ・パッケージ
- OS
- データベース
- インフラ環境
エンジニアを巻き込んで具体的に示すべき要素を把握するためには以下の方法があります。
- ジョブディスクリプションの作成
- KSA(知識、技術、能力)分析
- 社員アンケート
- インタビュー
特に企業内で価値あるスキルを洗い出すためには、活躍している人材の特徴を分析することが重要です。
株式会社ミツカリは観察、インタビュー、致命的な出来事の考察、日記、調査・アンケートという5つの分析をエンジニアに対して行っています。さらに、この5つの情報を統合し、KSAO(Knowledge, Skills, Abilities and Other characteristics)というフレームワークを用いて業務分析を行うことで、必須スキルを洗い出しています。
参考:)mitsukari
採用要件を価値観と能力に分類し、MUST/WANTを整理する
価値観(ソフト)は個人の考え方や行動様式を示します。一方、能力(ハード)は個人の知識やスキルを示します。採用要件をソフト面とハード面に分類することで、パフォーマンス評価の軸を変えることが重要です。
二軸で評価することで社員のエンゲージメントを高め、現場でパフォーマンスを発揮する基準の作成に貢献します。
「自社の課題に対して根幹の部分で貢献できる人材か?」という評価を下すことも重要です。そこで、「絶対に満たす必要がある要件のMUST」「あると望ましい要件WANT」に分類を行う必要があります。
例えば、
MUSTの部分が欠如しているが、WANTは充実した人材がいる場合を想定します。能力が高い人材でもMUSTが欠如していることで企業適合度が低いと考えられ、求めている人材ではないと判断できます。
例えば、Googleであれば
- MUST: 高い技術スキル、問題解決能力、チームワーク
- WANT: 創造力、革新性、Googleの文化への適合性
のようになっており、文化への適合がWANTに分類されていますが
Spotifyでは、
- MUST: 技術スキル、Spotifyのコアバリューへの共感
- WANT: 音楽業界への興味、創造力
コアバリューへの共感がMUSTに分類されており、企業によって大きく異なります。
求職者目線で競合他社と差別化する
ここまでの手順を追うと基本的な求人を作成することはできます。しかし、現時点では企業側の理想の状態であり、求職者にとって魅力的な求人ではありません。応募を促進させるためには、求職者の視点を取り入れ、応募したくなる求人条件へと変更することが重要です。
例えば、自社の待遇条件を一旦、相場と同程度に設定する事があります。しかし、相場と同程度に設定したことで他の求人に自社の求人が埋もれてしまいます。したがって、求人応募数が採用基準以外の影響を受けやすく、採用の狙いが外れてしまうでしょう。
相場を参考にするだけでなく、競合他社と差別化した待遇に設定する必要があります。
企業の風土や制度のリソースなどに応じて、8つの待遇の体系があります。
成果重視型
- 成長報酬型:基本報酬を抑え、書籍購入や資格取得に応じた報酬
- 高基本報酬型:給与ベースを高め、インセンティブを抑える
- 成果報酬型:基本報酬を抑え、成果や目標達成に応じた報酬
サポート重視型
- サポート型:ライフイベントや健康増進などに柔軟な選択肢がとれる
- フレキシブルベネフィット型:福利厚生や退職金を充実させる
- 社会貢献報酬型:社会貢献活動などに報酬や支援
- ワークライフバランス重視報酬型:勤続年数で有給休暇を付与、時短勤務等も検討
- フレキシブル勤務体制型:報酬は相場程度で、働き方の選択肢が多い
待遇条件の選択肢を増やし、自社に適した報酬・福利厚生制度を構築することが重要です。自社独自の待遇で競合との差別化を図り、優秀な人材の獲得が可能になります。
株式会社ゆめみの事例では、業務量が少ない日は早めに退勤したり、私用を済ませるために1〜2時間離席したり、成果さえ出していれば働く時間は割と自由に調整できます。また、働き方に関してもリモートワークやフルフレックスが可能で、副業も許可されています。
参考:)yumemiオープンハンドブック
このように採用基準を提示することで差別化を行い、求職者目線で魅力的な求人につながると考えられます。
採用フェーズごとの基準運用方法
採用においては応募者数を増やすためにも基準は最低限の内容から運用する必要があります。また、全ての要件を選考過程でチェックすることは時間と手間が膨大に必要となるため、フェーズごとに分けて確認することが必要です。
書類選考:基本的な要件重視
書類選考では、最低限の必須スキルや経験を有しているかを確認します。
また、志望動機などで明らかに自社の内容から外れている場合は不合格とするのが良いでしょう。
基本的に書類選考では人材のハード面の最低要件であるMUSTを重視し、満たしている人材は通過させるようにしましょう。ソフト面での違和感は次の技術試験や面接の段階で通過の判断を行うことができるため、通過人数を確保することを優先しましょう。
技術試験:実務の技術重視
技術試験はエンジニアが中心となることが重要です。募集ポジションに応じてコーディングテストやシステム設計の試験を課します。
ここでは、
- 経歴と実務スキルのギャップ
- WANTスキル
- エンジニアとしてのソフトスキルの充実度
を確認することが求められます。
ここでは、実際の現場で働くことを想定した評価が重要です。求職者が自社の現場で働く時にどの様な付加価値が出せるか、必要な業務を担うことへの評価が重視されます。この技術試験でスキルが自社で補えないほど不足していると考えられた場合はお見送りしましょう。
また、書類選考で評価できないチームフィットやコミュニケーション能力も試験を通じて評価しましょう。
面接:チームフィット重視
この面接では技術スキルの評価ではなく、チームフィット力や企業への適合性の評価が中心となります。
技術試験で評価した部分も併せて、企業カルチャーやチームとの適合性を評価し、価値観の共有を行います。
面接では基準を作成する際に決定したエンジニアに必要なソフトスキルについても質問を通じて見極めることが必要です。具体的にはSTARメソッド(状況、タスク、行動、結果)を使用した事例質問を行うことができると良いでしょう。
ソフトスキルと企業への適合性を評価することで選考の通過の判断を行います。面接官が求職者と話しやすいことやコミュニケーション能力が高いことを中心に評価することは間違いです。必ず採用基準の設定を忠実に守り、選考通過の判断を行いましょう。
最終面接:総合的な最終判断
最終面接は経営視点からの適正評価や企業理解の評価を行う段階です。また、他の応募者の選考状況も踏まえて総合的に求職者に内定の判断を行います。
特に自社が採用ブランディングを行った部分に対してどのように求職者が考えているかやオファー内容と求職者の思考性に相違がないかにも着目すべきです。
総合的な判断をおこなうため、他の候補者と比較する事が重要です。候補者のメリット・デメリットを深堀りして把握することや採用時の評価と入社後のパフォーマンスの関係等を総合的に判断することが必要になるでしょう。
持続的な評価と運用による採用基準の改善
採用基準を作成した後に運用し、採用を行います。そこで、エンジニアの市場は変化が激しいため、一方的に実施するだけでなく定期的に採用基準を改善することが必要です。
現場の声をフェーズ毎に収集
採用フェーズごとに、現在運用している基準での困難なポイントを面接等の評価シートを元に収集することが必要です。応募数や選考段階ごとの通過率と評価シートの内容を照らし合わせ、必要な人材がはじき出されていないかを確認することが求められます。
特に、応募数が少ない、選考通過率が悪い場合には、MUSTに設定したスキルを見直す必要があります。必須の要素や条件が厳しいために、応募してくれない、選考を通過できないことが想定されるからです。
面接官が好感を抱いたポイントがあったにもかかわらず、選考を通過できなかった理由などを分析し、必要があれば改善することが求められます。
効果測定による成果の数値化
採用における情報を定量化することで客観的にレビューすることができます。
採用段階では、採用コスト、採用期間、離職率などを指標として設定し、目標達成度を測定します。また、入社後の段階では新入社員のオンボーディング状況、開発案件への貢献度、パフォーマンスなどを評価します。
これらの指標に基づいて、採用基準が成果にどのような影響を与えているかを分析し、改善点を見つけ出します。また、選考時の評価と入社後のパフォーマンスを分析することで、活躍する人材の特徴や採用基準との関連性を調査することができ、自社の採用方向性を改善するきっかけになります。
市場分析によるエンジニア相場のキャッチアップ
IT業界においてトレンドの変化は非常に激しい状態です。数年前であればビックデータの分析がトレンドでしたが、現在はその先の分野である、生成AIがトレンドとなっています。このトレンドの変化により必要な人材の質や目的も変化しています。
そのため、求人情報サイトや転職エージェントの情報などを収集し、類似職種におけるスキルや経験、給与水準などの調査が定期的に必要です。また、合わせて競合企業の求人情報や採用活動に関する情報を収集し、自社の採用基準と比較分析することが必須となるでしょう。
自社の採用基準が市場の中で競争力を保持し続けることが非常に重要です。
基準の最適化基づいた面接官トレーニング
ここまでの情報を統合し、面接官のトレーニングも行う必要があります。
特に、「WANTスキルの変更点」や「選考時の評価と入社後のパフォーマンスとの関連分析結果」、「採用現場でのフィードバック」を中心に改善する必要があります。
採用基準が正しく適用されているかの判断に際して、現場エンジニアの協力が必要です。定期的な模擬面接の実施やフィードバックドキュメントの共有による相互的なチェックが採用を活性化させるでしょう。
面接官トレーニングの目的や背景とは?実践方法や必須スキルまで徹底解説!
まとめ
エンジニアの採用基準について、基準の作成方法・運用方法を実際の事例を交えながらご紹介しました。
エンジニアの採用業務は、企業の技術力の向上に直結する重要な業務です。技術力の向上が企業の生産性やっ品質の向上に影響するため、エンジニア採用業務にお悩みの方は採用基準の見直し、作成、運用を行ってみてはいかがでしょうか?
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