ミッショングレード(役割等級制)とは?導入のメリット・デメリットや企業事例などを徹底解説します

ミッショングレード(役割等級制)とは?導入のメリット・デメリットや企業事例などを徹底解説します

グローバル化が進む中、年功序列型の人事評価から与えられた役割の成果に応じて評価をするミッショングレード制(役割等級制度)を採用する企業が増えています。

ミッショングレード制の導入を考える企業の担当者様の中には、
・ミッショングレード制を導入するイメージがわかない
・どのようなメリット・デメリットが得られるのか
・実際に導入している企業の成功事例を知りたい
など、さまざまな疑問や悩みを抱える方がいると思います。

本記事では、ミッショングレード制(役割等級制度)について、他の人事評価との比較やメリット・デメリット、導入ステップ、事例など幅広くご紹介します。

監修者情報

監修者用
株式会社uloqo
関川 懸介
アドテクノロジーベンダー、リクルートグループを経て、2016年4月株式会社uloqoを創業。採用企画・採用広報・ダイレクトリクルーティング・組織開発・人事評価制度策定などを通じて、大手からスタートアップまで幅広く累計300社以上を支援。詳しいプロフィールはこちら

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ミッショングレード制(役割等級制)とは

ミッショングレード(役割等級制)とは、キャリアや年齢に関わらず、社員に与えられた役割(ミッション)に等級(グレード)をつけ、その成果によって等級や報酬が決定される制度です。

役割(ミッション)と等級(グレード)で序列化された等級制度と言えます。難易度や重要度が高い仕事で成果をだせば、それに見合う評価や報酬を得られるのがその特徴で、それまでのキャリアや年齢に囚われない客観的な評価がしやすいです。

ミッショングレード制は成果主義と似ている

ミッショングレード制の評価方法は、年功序列の傾向が弱く、仕事の重要度や難易度で報酬が決定することから、成果(実力)主義に近い傾向にあります。年齢にかかわらず、従業員に役割を与えることで、業務を限定しすぎることなく、成果に応じた処遇を実現できます。

比較的ベンチャー企業やスタートアップ企業で取り入れている仕組みであり、「年下の上司」や「年上の部下」が生まれやすくなっている背景の一つです。

ミッショングレードでの給与の考え方

ミッショングレード制における賃金についての考え方について解説します。

賃金の決め方

ミッショングレード制では、役割の難易度とそれに対応する成果に応じて賃金を決定します。従業員の個々の能力と担当する役割の組み合わせが適切であれば、能力、役割、成果をバランスよく評価し、適正な賃金を実現しやすくなります。

たとえば、役職ごと(ミッションごと)の年収を次のように定めます。

部長:1000万〜1100万円
次長:800万円〜900万円
課長:700万円〜800万円
主任:600万円〜700万円
一般社員:500万円〜600万円

このようにミッションごとに賃金を定めた上で、そのパフォーマンスが査定(評価)され、等級(グレード)が変化していきます。

昇格と昇給の考え方

一般的には、成果が出た後に昇給することが多いですが、ミッショングレード制では、職務上の役割(ミッション)が上がった段階で従業員に昇進や昇給が与えられることが多いです。従業員が昇進するためには、与えられた役割を果たす必要があり、企業は従業員の能力に見合った役割を与える必要があります。

ミッショングレード制度では、昇格や昇級は通常、人事異動時に行われます。また、役割の価値が高くなり、より高度な役割に就いた場合にも昇級することがあります。

降格と降給の考え方

ミッショングレード制では、職務上の役割の価値が低下した場合に、従業員に対して降格や給与の減額が行われることがあります。昇格や昇給と同様に、通常は人事異動のタイミングで行われます。また、あるプロジェクトが終了し、従業員がリーダー的な役割を担わなくなった場合にも降格することがあります。

職能資格制度・職務等級制度との違い

ミッショングレード制は、「職能資格制」と「職務等級制」を組み合わせた制度とも言われます。
それら二つの制度とどのように違うのか、詳しく比較します。

職能資格制

職能資格制とは、特定の分野に限らず人の能力を評価する制度のことです。年功賃金や終身雇用が一般的な日本の大企業で多く用いられ、日本独自の等級制度とも言われます。

この制度の導入により、経験を積むことが評価されるため、部署異動の指示がスムーズに行われ、企業が「ゼネラリスト」を育成しやすくなります。さらに、在籍期間が長いほど評価が高まり、役職や給与が向上し、従業員の離職防止やモチベーションアップにつながると期待されます。

しかしながら、在籍年数が増加することで人件費の負担が増大する可能性があります。また、総合的な経験を評価する一方で、雇用年数などが評価の根拠となり、個々の貢献度と評価が乖離することがあります。
従業員のモチベーションやエンゲージメントが低下する可能性もあり、近年疑問視されることも増えました。

職務等級制

職務等級制度とは、職務全体のうち、難易度や達成度に応じて評価を行うものです。

「成果主義」として知られ、海外でよく用いられる人事制度です。国内では、急速に成長しているベンチャー企業や新興企業が導入しています。この制度では、年齢や在籍年数に関わらず、仕事の成果のみを評価の対象とします。そのため、専門家を育成したい場合に有効な制度です。スキルや知識に基づくため、従業員のスキル向上や、採用時の適合度を向上させることができます。また、社員から会社に欠けている能力を見つけることも容易です。

しかしながら、社員の業務内容を詳細に確認する必要があるため、評価作業に時間や手間がかかる可能性があります。例えば、社員が真剣に取り組んでも、外部の事情で契約が成立しなかった場合など、評価が難しくなります。

膨大な職務が対象となるため評価が複雑で、日本ではあまり根付きませんでした。

ミッショングレード制(役割等級制)

そこで新たにそれらの代替案として導入されたのが、社員に与えられた役割(ミッション)に等級(グレード)をつけ評価するミッショングレード制(役割等級制)です。職能資格制と職務等級制を組み合わせたものと言えるでしょう。

この制度では各従業員に果たすべき職務や成果が具体的に提示され、その「役割」のパフォーマンスをもとに評価されます。役割の達成度といった実力に応じた登用が行われるため、社員の意欲・能力向上の効果を期待できるものとされています。また特定の職務を割り当てるため、会社側にとっても管理や評価がしやすいものになっています。

ミッショングレード制導入3つのメリット

ミッショングレード制を導入するメリットには以下の3つが挙げられます。

・具体的な目標に向けて取り組める
・業務内容と成果に応じた適切な人件費が支払われる<
・会社内で連携がしやすい

それぞれについて詳しく解説します。

具体的な目標に向けて取り組める

職務や成果といった明確な到達点が示されるため、従業員は自身の現在の段階を自覚したうえで今後何をすべきかを把握することができます。ミッショングレード制では、賃金設定の段階で、会社の目標を達成するために各従業員が何をすることが期待されているかを定めます。

目標が客観的かつ明確に設定されることで、社員が仕事をしやすくなり、主体的に高いモチベーションを持って業務に取り組むことができます。

業務内容と成果に応じた適切な人件費が支払われる

年功序列的な制度では、年々昇格・昇給が行われるため自動的に総人件費が上がっていくのに対し、役割等級制では各々の成果に応じてタイムリーに給与が決定されます。そのため全体として人件費が抑えられるうえ、社員は業績に応じた給与や待遇を得ることができます。

この点は、日本で主流である「職能資格制」の問題点を解消していると言えるでしょう。

会社内で連携がしやすい

各社員に役割が与えられるため、どの社員がどの職務を行っているかを把握しやすくなります。そのため社内でスムーズに連携を取ることができます。

社員一人ひとりが協力し合い、自由で主体的に仕事をすることができるため、業務効率化にもつながるでしょう。

ミッショングレード制導入の3つのデメリット

ミッショングレード制を導入するデメリットには、以下の3つが挙げられます。

・降格や降給がある社員に不満を持たれる
・制度の運用にノウハウが必要となる
・評価基準が曖昧になる場合がある

それぞれについて詳しく解説します。

降格や降給がある社員に不満を持たれる

ミッションに対するグレードを評価するにあたって成果主義を採用するため、どの社員も降格・降給の対象になり得ます。
特に、長年勤めてきた年配の社員には不満が生じるでしょう。年功序列の評価制度が広く用いられる日本では、ミッショングレード制の導入にあたり、社内に「一人一人が主体的に成果を出す」姿勢を浸透させる必要があるでしょう。

制度の運用にノウハウが必要となる

評価基準についての公式の規格はなく、各会社の裁量に任せられます。その為会社側には、従業員の納得のいくような基準づくりをする必要があります。

ミッショングレード制は、運用が複雑であるというデメリットがあります。この制度では、等級の評価基準に公的な基準が存在せず、企業の裁量に委ねられています。

企業は、自らの求める理想に適した独自の基準を設定する必要があります。全社員が納得できるような評価基準を作成するにはそのためのノウハウが求められます。評価の公平性・客観性の観点を常に意識する必要があるでしょう。

社員の不満の原因となる「人事評価エラー」は個人のバイアスが原因となることが多いです。完全にエラーを排除することは難しいですが、まずはエラーの種類を理解した上で、対応策を講じることが大切でしょう。

■人事評価エラーについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
7つの人事評価エラーとその対策方法を徹底解説!

評価基準が曖昧になる場合がある

ミッショングレード制には、評価基準が不明確になるリスクが存在します。職能資格制や職務等級制と比較して、評価基準が抽象的であるため、評価の根拠が曖昧になってしまうことがあります。

また、評価者側も、抽象的な基準で従業員の仕事を評価することになり、手間や時間、目標の理解が必要になります。さらに、評価基準が同じでも、社員ごとに仕事へのアプローチが異なるため、個々の社員の特性や成果を適切に評価することが困難になります。

ミッショングレード制を導入する3つのステップ

ミッショングレード制を導入する際には、以下の3ステップを実施しましょう。

1.制度の方向性を決める
2.役割定義書を作成する
3.社内に周知する

それぞれについて詳しく解説します。

1.制度の方向性を決める

この制度を導入する際には、まず社内の経営理念や目標を再確認し、企業が直面している課題や必要な人材・能力について明確に把握しましょう。ミッショングレード制は、他社が採用している方法をそのまま適用しても、うまく機能しないことも多いので、「自社の課題をどのように解決したいのか」という視点が大切でしょう。

制度導入後の目標やゴールについて、経営陣と社員がしっかりと共有する必要があります。

2.役割定義書を作成する

役割定義書とは、事業を行う組織を設計し円滑に機能させるための指針となるものです。また、その結果の事業目的の達成度を検証するためにも用いられます。

経営者側はバランススコアカードの4つの確度から目的を明確にし、それぞれの目的に適合した役割を各従業員に与えます。そのうえで、そのアウトプットが期待通りに行われているかを評価しなければいけません。

以下に役割定義書の作り方を説明します。

|役割定義書の作り方

①役職を振り分け、等級を付ける

まず担当させる役割の重要性に応じて等級を付けます。これにより等級ごとの仕事の重要性や責任が明確になります。またどの段階から等級が上がるのかが明確になるため,社員の向上心につながります。

②評価制度を構築

次にバランススコアカードを用いて、目標管理を行います。これによりどのような成果を出すべきか、またそのためにどのような行動が求められるかが明確になります。経営計画が組織・個人の単位の目標へと細分化されるため、従業員は自身の行動がどのように業績につながっているかを自覚でき、主体的な行動につなげやすくなります。

③報酬を決める

仕事の成果、役割の達成度に応じた報酬を決めます。このとき評価の対象となるのは仕事を行った本人ではなく、果たした仕事の内容です。これによって人件費を抑制し、社内の公平性を保つことができます。また到達程度によって報酬が明示されるため理解がしやすく、社員の高いモチベーションを維持することができます。

3.社内に周知する

制度を構築できたら、社内に周知し、全社員からの理解を得るようにします。
制度全体を納得感のあるものにできるよう努力を重ねる一方で、最後には社員から直接理解を得て実施することが欠かせません。説明会の開催や管理職との研修を通じて制度を広く浸透させることが大切です。

説明会や研修では、制度の目的やメリット、これまでの変更点、評価プロセスの詳細など、包括的な内容を説明することが重要です。また、従業員が質問をし、懸念事項を解決できる機会を設けることも重要です。

デメリットにも挙げたように、ミッショングレード制は社員の不満を生じさせることもあります。新しい制度を全社員に納得してもらえるよう、よくコミュニケーションを取りましょう。

ミッショングレード(役割等級制)の導入企業事例

パナソニック株式会社の事例

2014年10月に「役割等級制度」を管理職に導入し、2015年から一般社員に拡大しました。対象者は国内約7万人規模に及び、特に管理職の給与は年功要素が完全に廃止されました。

従業員の職責や役割に応じた給与を設定することにより、グローバルな人材確保と各社員の強化を図っています。

ソニー株式会社の事例

ジョブグレード制の導入により、年功要素を廃するだけではなくグレードの変更による降格も導入されました。

20代の管理職も誕生するなど若い世代の積極登用を進めており、また成果主義による人件費改革でグローバル競争力の強化を目指しています。

日立製作所の事例

2014年10月から従来の職能資格等級制度を廃止し、グローバル共通の役割グレード給に一本化しました。新制度では、各職務の役割や職責を国際的な統一基準に応じて評価します。

賃金体系も役割グレードを基軸としており、成果に応じた報酬を可視化することで従業員のモチベーション向上を促しています。

株式会社クボタの事例

職種ごとに3つのコース、またコースごとに等級が規定されており、業績貢献度に応じて進級していきます。

各従業員の能力や意欲に基づいたコース変更も可能であり、クボタの人事制度運営の基本的な考え方である「適材適所」「機会均等」を実現しています。

サントリーホールディングス株式会社の事例

「チャレンジできる人が活躍できる人事制度」を掲げており、組合員とマネージャ層とで異なる評価制度を用いています。組合員層はプロを目指し経験を積む成長段階と位置づけ、職能資格制度を採用し職務遂行能力に応じて評価をします。

一方でマネージャ層はこれまで培った経験を発揮する段階と位置づけ、役割等級制により役割と責任に基づいて評価します。このように評価制度を併用すると、職員に応じて柔軟な対応が可能となります。

キヤノン株式会社の事例

役割等級によって基本給を、また1年間の業績と業務プロセス・行動に応じて年収を確定しています。

個人の業績だけでなく会社の業績も賞与に反映されるため、企業の一員としての自覚を促し、個人の成果向上につなげています

まとめ

ミッショングレード制では、従業員各自に役割が与えられ、その役割のレベルと成果によって評価が行われます。そのため従業員側は明確な到達目標に向けて働くことができ、業績や意欲の向上につながりやすくなります。

社員の不満を生まないような評価基盤を作り、良いコミュニケーションを取りながらミッショングレード制を運用してみましょう。

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