社員の能力や適性を公正に評価することができる「コンピテンシー評価」が注目を集めています。
今回は、コンピテンシー評価の意味、メリット、デメリット、導入手順、導入時の注意点について執筆しました。コンピテンシー評価の導入をお考えの人事担当者様は是非、参考にしてみてください。
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コンピテンシーの意味とは?
「コンピテンシー」とは「能力」を意味しますが、ビジネス用語として「業務や役割において優秀な成果をあげる人物に共通する行動特性」とされています。
具体的に「コンピテンシー」には、安定的に発揮できる「専門知識や技術」「ノウハウ」「基礎能力」などの行動特性が含まれます。
コンピテンシー評価とは?
「コンピテンシー評価」とは、優秀な成果をあげる社員に共通する行動特性(コンピテンシー)を基準に行う人事評価のことです。
日本では、責任感や協調性、積極性などの総合的な観点から評価がなされる「職能資格制度」が多くの企業で活用されてきました。しかし、職能資格制度の評価基準は曖昧であり、評価者の主観に左右されやすいという問題が指摘されてきました。
コンピテンシー評価は、「業務を効率的に構築できる」「人の話を傾聴できる」「人と親密なコミュニケーションが取れる」など、具体的な行動特性を評価基準としています。そのため、社員の能力や適性を客観的かつ公正に評価しやすくなるのです。
コンピテンシーの歴史
元々は、米国務省が「学歴や知能レベルが同等の外交官が、開発途上国駐在期間に業績格差が生じる理由」の解明をハーバード大学の心理学者であるD.C.マクレランド教授率いるグループに依頼し、その調査結果から「学歴や知能レベルは業績とは相関が弱く、好業績を残す人材には幾つかの共通点がある」ということが判明しました。
具体的に挙げられた行動特性
- 異文化に対する柔軟な感受性と高い環境対応力
- 誰に対しても人間性を尊重する
- 自ら人的ネットワークを構築する高い能力
以上の調査結果よりコンピテンシーを評価基準に組み込む流れが生まれました。
コンピテンシーの背景
現在に至るまで、コンピテンシーが注目された背景は2つあります。
①企業の成果主義・実力主義への転換
人事評価における「業績・成果」のウエイトを高めれば高めるほど、「業績・成果」を評価する際の客観性がとても重要となります。
②高まる競争化に勝るための組織改革の必要性
人事評価以前の話となりますが、現在の高い競争率を求められる時代の中で、存続し続け収益を得るためには、組織としての生産性を今まで以上に高めていく必要があります。コンピテンシーを導入し、社員に目指すべき方向性を明確に伝え、各々がすぐに行動に移せるような環境づくりが重要となってきます。
コンピテンシー評価導入のメリット
コンピテンシー評価を導入するメリットとしては、下記のことが挙げられます。
公正な評価が可能
コンピテンシー評価では、具体的な行動特性を評価基準としているため、評価基準が明確になり、評価者の主観が入り込む余地が少なくなります。評価者は、人間関係や自身の出世、保身などを気にせずに評価できるようになり、より客観的で公正な評価が可能になるのです。
また被評価者も、自分に足りていない能力や行動を具体的に知ることができ、評価内容の理解及び納得がしやすくなります。
業績・生産性向上に貢献
コンピテンシー評価の項目は、高い成果をあげる社員の行動特性を基準として策定されるため、成功法則を組織で共有することにつながります。高い成果をあげている人のコンピテンシーを他の社員も取り入れることで、組織全体の業績・生産性向上が期待できます。
効果的な人材育成・人材配置を実現
コンピテンシー評価では、高い成果をあげている社員の行動特性を評価基準とするため、実際の行動目標として設定しやすいといったメリットもあります。「何をすれば評価されるのか」が明確になり、社員は具体的な行動に移しやすくなるのです。
また、誰がどんな能力を持ち、どんな行動がとれるのかが明確になれば、社員一人ひとりの適性に合った業務分担や職務配置が可能になります。
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コンピテンシー評価導入のデメリット
一方、コンピテンシー評価にはいくつかのデメリットが存在します。
評価基準の策定が困難
コンピテンシー評価には決まったテンプレートがあるわけではないので、企業ごとに独自のコンピテンシーを見出し、評価基準を策定する必要があります。
高業績者の行動特性を分析して評価モデルを開発する必要があり、時間と手間を要します。
変化に適応しにくい
コンピテンシー評価は、基準が明確で細分化されているため、柔軟性に乏しく環境の変化に適応しにくいというデメリットがあります。
一般的に、企業は成長に合わせて事業のフェーズが変化するため、その都度、業務上必要とされる能力や行動も変化します。企業の事業フェーズに合わせて内容を改定することになれば、メンテナンスの労力やコストは大きくなってしまいます。また、評価基準が適宜変わってしまうと、社員は目指すべき方向が分からなくなってしまう可能性もあります。
コンピテンシー評価のモデル集
①理想モデル型
企業理念や事業内容に合った理想の期待行動を考えて策定されるコンピテンシーモデルです。一般的には、社内にモデルとなる人材が存在しない場合に用いられます。規模がそれほど大きくなく、成果につながる行動特性を取る社員が実在しない企業でも導入することができます。
②実在モデル型
実際に高い成果をあげている特定の社員を参考に設計されるコンピテンシーモデルです。規模が大きい企業であれば実際に業績を上げている特定の社員が存在する可能性が高く、その情報を元にモデルを考えられます。成果につながる行動の頻度も確認することで、より詳細なモデルを策定することができます。
③ハイブリッド型モデル
理想型と実在型のモデルを融合したコンピテンシーモデルです。社内に実在する優秀な人材がもつ要素を抽出し、それらに基づいて、理想とする人材に求める要素を追加する方法でモデルを形成します。2つのモデルの良い部分を用い、さらに不足部分を補足することができる点で、最も優れた、且つ実現しやすいモデルです。
コンピテンシー評価の導入方法
ここでは、コンピテンシー評価の導入手順を解説します。
①優秀な人材へのヒアリング
評価基準や項目を設定するにあたり、まずは自社で高い業績・成果を出している社員にヒアリングをします。各部門の管理職層に成果をあげている社員の情報を提供してもらい、共通の行動特性を分析することで、成果につながる共通の行動特性を特定していきます。
成果をあげる優秀な社員が実在しない場合は、後述する「理想モデル型」の考え方で、企業理念や事業内容に合った理想の期待行動を考えて、あるべき優秀な社員像を設定します。
②コンピテンシーモデルの策定
優秀な人材からのヒアリングをもとに共通の行動特性を取りまとめ、社員の目標像になるコンピテンシーモデルを策定します。3タイプのコンピテンシーモデルから、自社が目指す人事評価を実現するために適切なモデルを選定します。
③評価基準と評価項目の策定
優秀な人材の主な行動特性は、達成行動(達成思考や率先力など)や対人支援、対人交渉力、意思決定能力、ストレス耐性、管理領域(人材育成力、リーダーシップなど)等が注目されやすい傾向があります。
これらの行動特性を評価基準として、数値による管理を行うことで、精度の高い人事評価制度の導入が可能となります。
④評価項目を、それぞれの職務や業務内容に落とし込む
③で選定・抽出した評価項目を全社もしくはそれぞれの職種における具体的な業務内容に落とし込みます。以下では、具体的に、全社共有(業種・職種を問わない、全社共通の理想像)のコンピテンシーと、業種ごとのコンピテンシーの例をご紹介します。
【全社共通のコンピテンシー】
自己の成熟性:全社共通の指標として、パーソナリティに関する評価項目におけるコンピテンシー
- 冷静さ:感情的にならず、落ち着いて物事に向き合う
- 誠実さ:仕事や他人に対して、常に敬意を持ちながら行動する
- 慎重さ:メリット・デメリットを想定し、行動する
- ストレス耐性:落ち込む出来事が起きたとしてもすぐ切り替え
- 自己理解:自分についてよく理解し、対処する
変化行動・意思決定:全社共通の指標として、自立志向やチャレンジ精神などを図る評価項目におけるコンピテンシー
- 行動思考:自身のためになることのために行動することをいとわない
- 自立志向:自ら立てた規範た目的に従って行動する
- リステイク:失敗の可能性があったとしても、可能性のある事
- チャレンジする
- 柔軟思考:環境・状況の変化に応じて、柔軟に対応する
- 素直さ:相反する意見を持っていた場合でも、他人の意見を受け入れる姿勢がある
- 自己啓発:自らの足りない部分を理解し、自ら積極的に取り入れる
【業種ごとのコンピテンシー】
営業職:対人業務で数値目標の達成が重視される業務
- 徹底性:一度挑戦すると決心した事に対して、達成するまで挑戦し続ける
- リステイク:失敗の可能性があったとしても、可能性のある事にチャレンジする
- 目標達成への執着:目標達成のため最後まで諦めず、打ち手を尽くす
- 対顧客:顧客への誠実な対応を通して、売上に繋がる行動をと
- ストレス耐性:落ち込む出来事が起きたとしてもすぐ切り替える
- 係数処理能力:計算が早く、数値が表す意味を瞬時に理解する
コンピテンシー評価を利用する際のポイント
自社にあった複数のモデルを作成する
具体的な行動に着目するコンピテンシー評価では、自社の企業理念や求める人材などに基づき、自社に合ったモデルを作成することが必要になります。部署や役職などによって、業務内容は大きく異なります。そのため、それぞれに合ったモデルを作成することで、より的確な人事制度の構築を目指すことが望めるでしょう。
定期的な見直し
具体的な行動特性を評価基準とするため、常に明らかな評価基準を設定しておく必要があります。とくに、企業の経営企画や方向性が変更される際には、人事評価も見直す必要性が高まります。コンピテンシー評価の定期的な見直しをすることで、より効果的な運用が可能になるでしょう。
成績や業績を基準に決定する
コンピテンシー評価では、成績や業績を基準に行動特性を特定し、評価基準や評価項目を策定する必要があります。
コンピテンシー評価は社員を公正に評価するための取り組みであり、客観的な数値を根拠に評価する必要があるのです。
長期的な運用を考える
コンピテンシー評価は導入にも手間がかかり、会社全体として大きな労力が必要になります。そのため、経営層や各部門の管理職、社員一人ひとりの協力が求められます。
また、事業のフェーズや外部環境の変化に合わせて、成果や業績に結び付く行動特性も変わっていくため、環境の変化に合わせて評価基準や項目を更新していくことが大切になります。
他の評価方法と組み合わせる
先ほど述べたように、コンピテンシー評価にもデメリットがあります。それらのデメリットを補うために他の評価方法と組み合わせて用いることが他の企業でも多く見られています。人事評価の方法はサービスを導入したり、評価制度を作ったり、制度作成を外注したりとさまざまです。自社にあった評価方法を用いましょう。
【関連記事】中小企業向けの人事評価制度の作り方とは?評価項目・導入のポイントを詳しく解説!
コンピテンシー評価を導入した企業事例
楽天グループ株式会社
楽天グループ株式会社の評価制度は、「コンピテンシー評価」と「パフォーマンス評価」から成り立っており、半年に1回、評価を行います。
「コンピテンシー評価」は、期待される行動を継続的に発揮できていたかを評価軸としており、その評価は給与に反映されます。
「パフォーマンス評価」は、期初に設定した目標に対する行動の結果もたらされた成果・業績を評価軸としており、その評価は賞与に反映されます。
社員の勤続年数に関わらず、行動・成果に対し評価を行い、成長を促す仕組みを提供しています。
東急電鉄株式会社
東急電鉄は人財育成においてコンピテンシー評価を用いています。安全力、技術力、人間力という三つの側面において育成に力を入れているようですが、その中でも人間力の育成においてコンピテンシー教育を充実させ、地域に貢献し、 信頼される人財育成の推進を目指しています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は、コンピテンシー評価の意味、メリット、デメリット、導入手順、導入時の注意点について執筆しました。コンピテンシー評価の導入によって効果的な人材育成や人材配置、生産性向上など多くのメリットが期待できます。
今回ご紹介した導入手順や注意点を参考にして、コンピテンシー評価の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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